JR西日本について
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『DISCOVER WEST それは、西にある。』
皆さんこんにちは。
行ったことはないけど文字でだけ知っている列車の終点へ、ふらっと行ってみたくなるmma(マー)と申します。
最初に挙げた「DISCOVER WEST」は2003年よりJR西日本が首都圏から観光客誘致を図るために掲げているキャッチコピーです。
JRグループの中では売上高第3位の規模を誇るJR西日本ですが、東海道新幹線を保有し莫大な純利益を生み出しているJR東海、首都圏の圧倒的な人口密度を味方につけ売上高トップのJR東日本に比べ、やや地味な印象を受けます。
今回はそんなJR西日本のとってきた戦略を読み解き、どのように地方のイメージアップに繋げているのかをご紹介します。
目次
JR西日本とはどのような会社か
正式名称は「西日本旅客鉄道株式会社」と言います。
1987年に、国鉄分割民営化により国鉄が分割され、そのうちの一つとして生まれました。
在来線としては近畿圏を中心に中国地方、北陸地方、また新幹線としては山陽新幹線と北陸新幹線があり、新大阪駅から博多駅まで西日本一帯に広大なネットワークを保有しています。(現在の北陸新幹線の説明をすると長くなるので今回は割愛しております。)
国鉄の地の底まで落ちたサービス
先日、東海道新幹線の車内ワゴン販売のサービス終了が注目を浴びていましたね。
また近年ではみどりの窓口の廃止も進んでおり、山手線の駅であっても廃止されたという話を聞きます。
人口が減り続けていることや、コロナ禍によって旅客数が減ったことが、これらの合理化の流れに拍車をかけたと考えています。
1980年代の国鉄は多くの不採算路線の建設で債務が膨れ上がっていました。
また労働組合の力が強く、ストライキを頻発し鉄道の定時性は失われ、利用者からの国鉄への不満は大きくなる一方でした。
(サービス悪化の面だけを現代の視点から簡潔に書いてしまうと火種になってしまうので補足しますが、当時は日本全体が経済的に成長していた時期ですしお金とサービスが見合っていない過渡期であったと思います。国鉄の労働組合もストライキが許容されるものであるとの認識で実施したと思いますし現代の価値観だけで全ては語れないと思います。)
結果、不採算事業の切り離しとして国鉄民営化へと繋がっていきます。
JRとして生まれ変わったサービスの形
「民営化して良かった」と言う人もいれば「しないほうが良かった」「民営化には賛成だが分割してしまったのが問題」と人によって感じ方は様々です。
民営化してサービス向上したものには次のようなものがあります。
- 輸送の定時性の確保
- 構内トイレの定期的な清掃
- コンビニや駅ナカ商業施設の充実
JRになった現在では旅客輸送が事業のメインになり、各種サービスはそれに特化した業者に任せることにより合理化・専門化を進めることができました。
民営化したことによる問題点
逆に民営化して問題になっているものも挙げさせていただきます。
- 首都圏と地方都市との格差拡大
- 不採算路線の廃線危機
これは民営化というより分社化したことによるデメリットですが、やはり不採算路線を多く抱える地方になればなるほど補填するための運賃は高くなりますし、廃線の危機に脅かされます。
近年ではJR北海道のインフラ不備の放置などが問題になっていますが、やはり使えるお金が沢山ある東海道新幹線などではこのような問題は起きなかったように思われます。
「不採算路線を廃止にして健全な経営をしろ!」と言ってしまうのは簡単ですが、路線の保守というのはインフラ事業であり「赤字だから」と簡単に廃線にできない現実があります。
そんなことをしてしまえば首都圏と地方都市との差は益々広がってしまうのです。
JR西日本の経営体質
次にJR西日本の経営について過去の影の部分とこれからどう変わろうとしているのかについてご説明します。
事故について詳細ではありませんが、触れておりますので苦手な方は次の章まで飛ばしていただいても結構です。
JR福知山線脱線事故
JR西日本の影の部分を語るうえで欠かせないのは何といってもJR福知山線脱線事故ですね。
2005年4月25日に起きたこの事故、当該車両の運転士を含め107名が死亡するという平成の中でも突出した大事故でした。
2023年現在もJR西日本のトップページには「福知山線脱線事故について」という事故の追悼についてのページが掲載されています。
またJR西日本の長谷川代表から株主に対するメッセージ「株主の皆様へ」という内容でも、まず最初にこの福知山線脱線事故について述べられています。
事故の詳細は割愛しますが、列車の到着が定刻から遅れたら再教育という名で懲罰が課せられていたこともあり、直前に駅をオーバーランするというミスを犯していた運転手はその後れを取り戻そうとスピードを落とさずにカーブに侵入し曲がり切れず脱線した、というのが事故が起きてしまった理由の一つとなっています。
では何故このような厳しい教育が社員に対し行われていたのでしょうか。
JR西日本の不適切な教育体制について
これは京阪神地区におけるJR西日本の立ち位置が大きく関係しています。
東京の山手線と大阪の環状線、似ているようで大きく異なる点があります。
それは環状線の内側にも各私鉄のターミナル駅・主要駅があることです。
などが挙げられます。
ここに更に主要駅を直線で貫く大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)が走っているため、JR東日本とは異なりJR西日本は大阪都心部でそこまで優位な立ち位置を確立できていないことがわかると思います。
特に京阪神(京都-大阪-神戸)地区を結ぶ路線に関しては、各社旅客の奪い合いが戦前から今に至るまでずっと行われています。
その中で「速達性」に力を入れて、私鉄各社と差別化を推し進めていたのがJR西日本です。
文字通り一分一秒を争い、旅客を主要駅へ運ぶのを重視するあまり、安全性を軽んじてしまっていたのだと私は思います。
JR西日本がこうした厳しい環境に立たされていたこともあり、旧国鉄時代から続く悪しき風習が変えられなかったのだと思います。
現在のJR西日本の体質
先述した通り、現在もJR西日本は福知山線脱線事故のことを反省し続けています。
事故後、安全性重視の教育に切り替え、また設備投資に関しても安全機器の設置などを行なっており、二度と事故を起こさない組織づくりと、一企業ができるこれ以上ないくらい誠実な対応をしているように私は感じます。
(それでも事故に合われた方や、見ていた人が「不誠実だ」と言ってしまうのも理解はできます。)
JR西日本のブランディングについて
事故のことが無かったことになることは決してありませんが、JR西日本はそれを乗り越えて現在の立ち位置を確立しているように思います。
JR各社のイメージ戦略について
JR東海のイメージとは
「JR東海」と聞いてどういうイメージを持っていますか?
「在来線は置き去りにされている」と言ってしまっては沿線住民から反感を買ってしまいそうですが、とはいえ東海道新幹線で捻出した莫大な利益の一部で内陸の赤字路線の補填を行なっています。(正確にはJR東海は赤字路線を公表していませんが、赤字路線も少なくないことは明らかです。)
JR東海のイメージとは常に日本のトップでありその先を行く先進性です。
新卒の採用コンセプトには『Dear Japan』を掲げており、「名古屋都市圏を中心とした街づくり」ではなく「日本の中心として引っ張っていく」という企業理念が伝わってきますね。
いまだに揉めている2027年開業予定のリニア中央新幹線計画も、JR東海でなければ推し進めることができない規模の事業であると思います。
JR東日本のイメージとは
在来線では関東から甲信越・東北までをカバー、新幹線では東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線・山形新幹線・秋田新幹線と多くの新幹線を保有しています。
JR東日本のイメージとは一日平均1,659万人(2010年度)を輸送する規模の大きさです。
インフラ事業、特に鉄道において人口密度は正義です。
大規模都市を結ぶ路線はそれだけで大きな利益を生み出します。
また「Suica」は全国の交通系ICカードの先陣を切り、現在は全国のICカードと相互利用ができるようになりましたが、交通系ICと言えばSuicaというように、全国的にその名前は知られています。
JR西日本のイメージ戦略について
2023年7月21日より東海道新幹線で使われてきたチャイム「AMBITIOUS JAPAN!」から「会いにいこう」に変更されましたね。
では山陽新幹線のチャイムは何が使われているかご存知でしょうか?
山陽新幹線の車内のチャイムは2003年から上記の「DISCOVER WEST」キャンペーンとして「いい日旅立ち・西へ」が使われています。
また90年代にJR西日本の行なった京阪神地区の観光キャンペーンのコピーとして「三都物語」を掲げ谷村新司さんが同名のイメージソングを歌いました。
谷村新司さん繋がりでいうと北陸方面への特急の社内チャイムにて「北陸ロマン」が採用されています。
ノスタルジーを感じさせるイメージ戦略
ここまで見ていただくとわかると思いますが、JR西日本の取ってきたイメージ戦略とは、ずばり「ノスタルジー(郷愁)」です。
先進的なものが好きな人からすると、JR西日本のこの戦略は懐古主義のように感じている人もいるのかもしれませんが、昨今の「レトロブーム」のような人気もあり注目されてきていると思います。(個人的に簡単にレトロという言葉を使ってしまうのは歴史を蔑ろにしているようであまり好きにはなれないのですが・・・)
例えば、広島にある竹原駅の駅前には「おかえりなさい」の文字が記され、この地で育った人や観光客を温かく出迎えます。
(アニメ「たまゆら」などでも描かれ聖地として話題になりました。)
また同じく広島の尾道駅は坂と瀬戸内海に囲まれた懐かしさの残る街で、古くからある商店街に、新たな事業者も参入して良い変化を生んでいます。
神様のように崇められている野良猫の姿を追って、坂に迷路のように張り巡らされた古民家のその間を抜け、後ろを振り返ると尾道水道が出迎えてくれます。
(私も好きで5回ほど訪れました。今度尾道についても一本書きたいなと考えています。)
また山陰地方に関しても「#レトロ山陰」なるキャンペーンを行なっており、やはりこの「ノスタルジー押し」なのは近年JR西日本が意識的に行なっているブランディングであることが分かっていただけたのではないでしょうか。
二番手・三番手の企業に求められるブランディングとは
最初に述べたように、JR西日本は売り上げではJR東日本には勝てませんし、純利益ではJR東海に勝てません。
地味な立ち位置かもしれませんが、私は身の丈に合ったマーケティング手法を取られていると見ています。
物やサービスの提供において大規模なシェアを持っている一番手に対抗するためには、同じマーケティング手法では太刀打ちできません。
(多く作って、多く売れば売るほど、安くサービスが提供できるようになります。)
一番手とは差別化した二番手・三番手なりのキャンペーンを実施し、新たな価値を生み出し、自身のシェアを守りつつ一番手からのシェアを奪っていくことが求められると思います。
さいごに
ここまでJR西日本の行なってきた「ノスタルジー」ブランディングについて説明させていただきました。
上記にも記載しましたが、関西や北陸、中国地方には歴史ある景色がまだまだ残っています。
レトロ人気も相まって、これらの地域は再注目されてきています。
再注目される裏側にある、大規模な事故を起こしてしまい一度は信用を落としてしまったJR西日本がいかにしてイメージアップに繋げたのかというお話をさせていただきました。
国鉄時代からすると確実に都市部と地方の差は広がってしまっていると思います。
ですが、こうやって地方の魅力的な部分を押し出すことによって、現代に生きる私たちが何かを感じ、例に挙げた尾道のように新規参入する人たちも出てきています。
地方創生が叫ばれる世の中、新しい働き方も根付きつつあります。
私もただ観光して終わりではなく、地方の魅力を発信する側の一員になりたいなと思うのでした。